18世紀ロンドンとコーヒー・ハウスと現代のコミュニティ
「コーヒー・ハウス: 18世紀ロンドン、都市の生活史」という本を読んだ。
作者は小林 章夫さんという日本の人で、この本が出たのは2000年ぐらい。若干表現が古めかしい感じはあるが、まあ内容はもっと古い。
4年前ぐらいにちょっと大航海時代~産業革命あたりを題材にしたWeb小説を趣味で書いていた時期があり、その時に資料として積んでいたままだったのをやっと読み終わった感じ。
「さまざまな意見の人たちが、コーヒーの香りと紫煙の中で、政治を論じ、権力を批判する」。17世紀半ばから18世紀にかけロンドンで繁栄した「コーヒー・ハウス」は、そんな場所だったらしい。時代背景といい、そのブルジョワ的喧噪ぶりといい、江戸時代の「浮き世風呂」や「浮き世床」を彷彿とさせるが、著者が「人間のるつぼ」と表現するこの市井のサロンには、政治家、芸術家、詩人、小説家、ジャーナリストから、政府の隠密、海運業者、株屋、はては賭博師、詐欺師、スリ、その他もろもろの犯罪者まで、およそ大都会にうごめくありとあらゆる人種が立ち混じっていた。その日常のにおい、出入りする「ボー(粋人)」「ウィット(才人)」の人間模様、政治・経済・社会的機能を、著者は、ダニエル・デフォー、ジョナサン・スウィフト、日記作家のサミュエル・ピープスらの記述、当時の新聞記事、広告などから、克明に活写している。しかし、そうして再現された「コ-ヒ-・ハウス」なるもののかたちは、町人だけの社交場だった江戸の湯屋とはかなり様相が違うようだ。この「人間のるつぼ」は、政治的には「トーリー(保守党)」と「ホイッグ(自由党)」の苗床だったし、経済的には世界最大の保険機構「ロイズ」を萌芽させる土壌だった。文化的には、「詩人ジョン・ドライデンを中心として17世紀末のイギリス文学、とくに詩と演劇の分野に大きな影響を与え」「ジャーナリズム、エッセー文学の成立に貢献した」。そればかりか、たとえば、ロンドン大火(1666年)の原因として「カトリックの陰謀事件」を捏造するようなデマゴギー機関としての役割も果たしている。言ってみれば、ロンドンのコーヒー・ハウスは、イギリス18世紀文化の内臓機関だった。この本を読むと、それがよくわかる。(伊藤延司)
引用:アマゾンの本書商品説明より
大航海時代といわれるのがだいたい15〜17世紀ぐらいで、この本の対象の時代はもうちょっと後の18世紀である。海路を通してさまざまな資源がやってくるのがあたりまえになり、そこから紅茶やコーヒーが安定してやってくるようになったころかな?
ロンドンといえばビールを飲むパブとか紅茶とかもあるんだけど、コーヒーハウスは酔っぱらわずにたむろしていろんな会話ができるサロンみたいに機能していたらしい。ちょうど新聞とか海運の保険とか郵便とか株とか発達してきている時代でもあったので、いろんな人があつまって新聞を回し読みして政治について話したり、株とか保険とか売買したり時には詐欺にあったり、コーヒーハウス宛に送られた郵便を受け取ったりとかとにかく人が集まるハブとして機能していたとのこと。
王政と議会制民主主義で揺れていた時代でもあるし、集会や新聞には色んな規制とかもあったり、いろんな人が集まりすぎて治安が悪くなったりしてそういう緩い集まりは次第になくなってしまったみたいだけど。
こういう状況については筆まめなひとが日記に書いていて記録に残っているらしい。本書では何人かの日記を参考書籍としていた。その中には夏目漱石(1867-1916)とかもいたりして時代感が繋がって面白い(漱石がイギリス留学したのは1900年ぐらいらしいのでちょっと後の記録にはなるけど)
ちょっと内容が多いのでざっと読んだだけだとなかなか細かいところまで把握できてないけど、その時代のロンドンに生まれていたら自分も足繫く通っていただろうなと思う。
最近ゆる学徒カフェにちょっと行ってみたりしてたけど、ちょっと本書のコーヒーハウスに近いところもあるなと思った。ふらっと集まった人たちが会話する感じは近い。
現代だとそういう偶発的な出会いでの会話というのがなかなか難しくなっているので貴重な場ではあるが、まあこういう集まりの宿命としてあんまり長続きするものでもないだろうなとは思っている。規模が大きくても小さくてもだめだし、常連が固定化していく問題もあるし、そもそも集まる母体であるYouTubeチャンネルがどれぐらい続くかもわからないし。
一時期のVRChatもサロンとしてある程度機能していたけど、いまはなかなか成立するのが難しそうな印象。ちょっと人が増えすぎたのと、一部ユーザーが良くも悪くも権威になっちゃったり、企業ががっつり参入してきてたりとかなかなか偶発的な出会いに期待するには難しくなっている。
個人的には最近はペイウォールとか参入を絞る仕組みを挟んだDiscordあたりがちょうどよさそうに思っているけど、他にもないかは探してはいる。